ダーバス・ボックス・ブレイクアウト手法
Nicolas Darvas · 1950年代(代表的な実績は1957〜1958年の米国株式の強気相場、ロングオンリー・無レバレッジ)
作成 2026.07.08
ニコラス・ダーバスは1950年代に世界を巡演していたダンサーでした。客席ではなく電報で届く株価だけを見て売買していたため、彼はニュースでも噂でもなく『価格が描いた箱』ひとつにルールを賭けました。新高値をつけた銘柄がしばらく上下にもみ合って作るボックス、その天井を終値で越えたときだけ乗り、下限が割れたら例外なく降ります。この記事は、彼が著書で公開した手法の『構造』を教育目的で分解します。真似すれば儲かるという話ではなく、ブレイクアウトと無効化の地点をスキャンするレンズとして読みます。
- ボックスは、新高値のあとに天井(3営業日連続で未突破)と下限(3営業日連続で未離脱)がともに確定して初めて完成します。
- エントリーはザラ場のスパイクではなく、終値が天井の上で引けたとき、できれば出来高の急増を伴ったときだけです。
- 損切りはエントリーと同時にボックス下限の下へあらかじめ置き、新しいボックスごとに上へだけ階段式に移動します(ナンピン禁止)。
- 勝率ではなく損益比です。多数の小さな損失を、少数の大きなトレンドで相殺します。遅行性・ロングオンリーという限界も併せて見ます。
① 判別 — ボックスはどう完成するか
ダーバスの出発点は銘柄ではなく局面でした。彼はまず、市場全体とセクターが強気で、銘柄が年間・52週の新高値付近にあるかを確認しました。下落相場や弱い銘柄は、どれほど安く見えても候補から外しました。彼の原則は『トレンドに逆らわない』ことでした。
- 新高値の確認:銘柄が新高値を新たにつけます。
- 天井の確定:その高値を3営業日連続で越えられなければ、その高値が『ボックス天井』になります。
- 下限の確定:天井が決まったあと、安値が3営業日連続で割れなければ、その安値が『ボックス下限』になります。上限と下限がともに決まって初めてボックスが完成します。
価格がボックス内で上下にもみ合っている間は様子見が原則です。まだ上限・下限が確定していない『未完成のボックス』を追いかけるのは、だましのブレイクアウト(ウィップソー)に繰り返し損切りさせられる近道です。
② エントリーの枠組み — 観測であって予測ではない
エントリーは予測ではなく遅行の観測です。終値がボックス天井の上で引けたとき、できれば出来高の急増を伴ったときだけ『有効なブレイクアウト』とみなします。ザラ場で一瞬だけ天井を突いて引け前に戻る瞬間的な突破は、シグナルとして数えません。
同じ『天井突破』でも、ザラ場の瞬間的な突破は戻される可能性のある未確定のシグナルであり、終値が天井の上で引けたものは、その日の買い方が勝ったという確定シグナルです。ダーバスのルールは常に終値基準です。これは買いの指示ではなく、確認の手順です。
価格が箱の中で踊っている間、私は待ち、箱を突き抜けて上がったときだけ追って乗った — ダーバスが残した『ボックス』概念の要旨。
③ リスク・サイジング・ピラミッディング
ダーバスは買いと同時に、ボックス下限(または直前の有効な安値)のすぐ下に損切りをあらかじめ置きました。『いくら失うか』をエントリー前に確定させるのです。エントリー価格からこの損切りまでの距離が、そのまま1R、つまりこの取引で受け入れる損失の1単位になります。
- 価格が上へ新しいボックスを積み上げると、以前の天井が新しいボックスの下限になります。
- 損切りラインを新しいボックス下限の下へ一段引き上げます。決して下へは下げません。
- 追加の買い(ピラミッディング)は、新しいボックス上限を再び突破したときだけです。下落する銘柄へのナンピンは禁止です。
含み損の位置で買い増して平均取得単価を下げるのは、ダーバスのルールの正反対です。追加は利益が出ていて、上へ新しいブレイクアウトが出たときだけ行います。損失は短く切り、利益だけを伸ばす損益比の構造なので、このルールが崩れると手法全体が崩壊します。
④ 無効化と限界
無効化は単純です。価格が現在のボックス下限を割って終値で引けると、構造が崩れたとみなして例外なく手仕舞います。上限を突破した直後にすぐボックス内へ戻ること(だましのブレイクアウト・ウィップソー)も無効として扱います。
① 遅行性 — ボックスは過去の価格の産物なのでシグナルは常に遅く、しばしば高値の直前で乗って含み損を抱えます。② レンジ相場に弱い — だましのブレイクアウトに繰り返し損切りさせられます。後世のバックテストでは日足スケールの成績は振るわず、週間(52週)スケールでかろうじて機能しました。③ 的中はコイン投げ程度 — 成績は少数の大きなトレンドに全面的に依存します。④ ロングオンリー・無レバレッジの株式手法のため、ほかの局面での再現の証拠は弱いです。
巨匠本人の実績すら論争的です。1960年、ニューヨーク州司法長官ルイス・レフコウィッツは、ダーバスの収益主張の大部分を『立証不能』とし、検証可能な利益は約21万6千ドルだけだとしました(ダーバスは言論弾圧だと反論し、裁判所は調査を差し止めました)。書名の『200万ドル』というヘッドラインの数字そのものが争いの対象だ、という意味です。ですからこの手法は『収益実績』ではなく、ルールの構造としてだけ読むほうが安全です。
⑤ クリプト(無期限先物)へ移すとき
ダーバスは現物株をロングオンリー・無レバレッジで買いました。この骨格をクリプト、とりわけ高倍率の無期限先物へ移すには、そのまま複製してはならず、4つの点を必ず調整する必要があります。
- タイムフレーム:24時間・高ボラティリティの市場で『3営業日』ルールをそのまま使うとノイズが大きくなります。日足・週足など上位タイムフレームの確定終値でボックスを定義し、低位タイムフレームのウィップソーをふるい落とします。
- レバレッジ:ボックス下限の損切りが倍率のせいでそのまま清算価格につながることがあります。倍率を下げ、損切り幅に対するポジションサイズをリスクから逆算します。
- ストップハント:ボックス境界のすぐ下の流動性が意図的に刈られることがあり、境界にぴったり付けた損切りは狩られやすくなります。余裕幅や終値の確認を併用します。
- 方向性:ダーバスはショートをしませんでした。下落が頻繁なクリプトでは、ロングオンリーの骨格は片方だけのものだという点を前提に置きます。
どの調整も将来の価格や収益を保証するものではなく、個別のエントリー指示でもありません。ここで整理したのは、特定の人物が公開した手法の『構造』にすぎません。
たとえばある資産のボックス天井が100、下限が92だとします。終値が101で天井の上で引けたのでエントリーし、損切りをボックス下限の下、91に置くとすると、1R=101から91まで=10(約10パーセント)になります。ダーバス流は目標価格をあらかじめ固定せず、『新しいボックスが積み上がり続けるかぎり』トレーリングで引っ張ります。トレンドが121まで続いてボックス下限の離脱で降りればプラス20=2R、141なら4Rです。要点は的中したかどうかではなく、この一度の3〜4Rが、先に1Rずつ切られた3〜4回のだましのブレイクアウトの損失を覆えるかどうかです。口座の1Rを資本の1パーセントに固定すれば、損切り幅(約10パーセント)が決まった瞬間に、名目ポジションサイズ(資本の約10パーセント)は自動的に逆算されます。数値は概念説明のための仮定であり、特定の銘柄・将来の価格とは無関係です。
- いまこの資産は実際に強気トレンドで新高値付近にありますか、それともただ大きく下げて安く見えているだけですか。
- ボックスの天井と下限が、それぞれ3営業日ルールで『確定』しましたか、それともまだもみ合いの途中(未完成)ですか。
- 自分が見ているシグナルは終値の突破ですか、それとも戻される可能性のあるザラ場の瞬間的なスパイクですか。
- エントリー前に、ボックス下限の下の損切り・1R・ポジションサイズを数字で書き留めましたか。
- (クリプト)この損切りの位置は倍率のせいで清算価格と重なりませんか、境界のすぐ下の流動性が刈られる危険はありませんか。
よくある質問
ダーバス・ボックスは何日を基準に描きますか。
新高値をつけたあと、その高値を3営業日連続で越えられなければその高値がボックス天井、その後、安値を3営業日連続で割らなければその安値がボックス下限になります。上限と下限がともに確定して初めてボックスが完成し、それまでは様子見が原則です。クリプトのように24時間・高ボラティリティの市場では、『3営業日』を日足・週足など上位タイムフレームの終値に再定義し、低位タイムフレームのノイズをふるい落とす必要があります。
ザラ場で天井を突破したら、すぐ買ってもよいですか。
ダーバスのルールの核心は『終値の確定』です。ザラ場の瞬間的な突破は引け前に戻されるだましのブレイクアウトが多いため、終値が天井の上で引け、できれば出来高が急増したときだけ有効なブレイクアウトとみなします。これは買いの指示ではなく、遅行の確認手順です。
ダーバスは本当に200万ドルを稼いだのですか。
彼の著書の題名は『私は株で200万ドル儲けた』ですが、1960年、ニューヨーク州司法長官ルイス・レフコウィッツは、検証可能な利益は約21万6千ドルだけだとして大部分を『立証不能』と規定しました(ダーバスは言論弾圧だと反論し、裁判所は調査を差し止めました)。ヘッドラインの数字そのものが論争的なので、この手法は収益実績ではなく、ルールの構造としてだけ読むのが安全です。
なぜナンピンは禁止なのですか。
ダーバスは下落する銘柄に買い増しをしませんでした。追加は、価格が上へ新しいボックスを積み上げてその上限を再び突破したとき(ピラミッディング)だけ行います。損失は短く切り、利益だけを伸ばす損益比の構造だからであり、とくにクリプトの高倍率ではナンピンが強制清算による『全額損失』になりやすいからです。